【2010年11月30日】 タイトル: 研修医日記 vol.125
研修医日記
 最後の研修日記となりました。思えば早いものです。最近、時の流れが早すぎると感じています…。沖縄研修で4週間研修したことを簡単に書きました。最後は真面目に書いてしまったため、長文になってしまいました。

(※勝連城跡)

10月下旬から1ヶ月間、地域研修という形で、沖縄の南部医療センターと離島(渡嘉敷島)の診療所で研修させて頂きました。みなさんは“沖縄イイナ~”と言われますが、リゾート目的に行くわけでもなし、研修しに行くのです。医療圏が違うと、医療そのものの考え方が違い、同時に検査や治療も大きく異なります。それだけでなく、環境、現地の人々の言葉、文化、病気に対する考え方、等々地域性の違いが、若干1年ちょっと医療を経験した研修医にとっては、大きな障壁となります。しかしその点、我々にとっては大きな成長の場、修行の場としてとても良い経験になります。私は南部医療センターのER(救急救命センター)で2週間研修させて頂きました。

(※南部医療センター外観です)

ERでは研修医の1人として診察させていただきました。普段は「慣れ」てしまって、あまり目を通さないマニュアルを方手に、青森県の医療の代表として恥をかくまいと、緊張感を持って臨みました(身の程知らずですが、周りの目線ではそう捉えられるでしょう)。すると、今までむつの研修に「慣れ」てしまった為か、見えてないものが見えてきたのです。
むつの救急外来は、外来の開始日までの治療しかしません。対して、南部医療センターERは2、3日先の経過を読んで治療薬を出します。必要に応じてERで経過を見る患者さんもいます。むつは、緊急性があるか無いか判断できれば良く、その後の治療は外来の先生にお任せな部分が多いのです。これに「慣れ」てしまうと、その後の治療への関心や考察は疎くなってしまうものです。2、3日見越して治療するのは本当に大丈夫だろうか、、、と不安にかられます。その不安は勉強する事で補うことができますが、恥ずかしながら、今以てそれを再確認しました。

(※救急外来の初療室です)

研修医の診察が様式化しないように、上級医の先生から様々な質問をぶつけられます。さらに、病院全体が研修医を直に教育していると感じました。平日昼には、コアレクチャーといって、それぞれ専門の科の医師や看護師、検査技師等が講義します。毎日の講義はすべて頭に入らないとしても、大変な知識量になるでしょう。沖縄の他の研修病院では、中部病院のコアレクチャーがテレビ電話で流れるようです。
こういった環境の中でも、看護師さんが研修医にきつく優しく指導にあったってくださるのは、むつも沖縄も同じです。

(※このようなテレビ電話でレクチャーがあります)

南部医療センターERではまず研修医が救急コールを取ります。原則、救急車は全て受け入れます。むつでも地域特性上、救急車は全例受け入れます。しかし、むつでは常勤の脳外科医がおらず、手術するには厳しい環境です。その点、南部医療センターでは、後期研修医を含めた常勤医がいるので、ダブルヘッダーでも手術ができます。脳外科医がいると、こんなに心強いとは…。ちなみに、私がいた2週間(日勤帯)で慢性硬膜下血腫が2件、外傷性の急性硬膜下血腫が2件と、かなりハードでした。普段はこんなに忙しくはないそうですが。

(※アニキ、言いつけ通り那覇を炎上させて参りました)

 後半2週間は、沖縄から高速フェリーで40分ほどにある、渡嘉敷島の診療所で研修させていただきました。短い研修期間でしたが、島の雰囲気とそこに住む人の人情、思想、抱えている問題など、密接な診療ができました。診療所の先生が教えてくださった、「病(やまい)」と「疾患」についてのアプローチも、いつも診察しているものとは、似ている様で全く非なものでした。つまりは、患者の「真の問題」には触れていなかったという事です。患者さんが病に関して色々な解釈を持っているのも新たな発見でした。
家族構成、生活歴を聴くこと、ADL(日常の生活を送るために必要な基本動作)を評価することでその人自体の問題が浮き彫りになります。また、直接お宅に訪問する機会も作って下さり、問題点を直接見る事もできました。島の人たちとも交流でき、良い経験になりました。

(※インフルエンザの予防接種を手伝いました。)

青森の医療と沖縄の医療と比して、まず大きな相違点を挙げるとすれば、感染症に対する考え方でしょう。感染症の患者さんが受診された場合、熱源を検索し、検体(痰や尿、便など)を染色して顕微鏡で鏡検し、感染の原因菌を特定します。特定した上で、院内の抗生物質感受性や、前回の感染症で入院した際のデータ等を考慮して投与する抗生剤を決定します。そして、入院が必要と判断した場合、適切な科の先生にコンサルトします。これは全部研修医の仕事です(これは青森県の一部の病院でも行っています)。もちろん上級医の先生の監督下ですが、このような環境であれば、感染症を体で理解し、抗菌薬の濫用も防げるのではないかと思います。某先生は、黄色の痰を見ると、染めたい衝動にかられる、とおっしゃっていましたw。それ程まで行かずとも、私たちは感染症に真剣に取り組む必要があります。

(※お世話になった渡嘉敷診療所です)

良いことばかり挙げましたが、これらのシステムは医師の人数が多く、比較的都市部に病院があり、研修医も多くいる環境下だからこそ実現できるのです。沖縄の医療をそっくりそのまま取り入れるのは不可能ですし、地域性を無視した考えであると思います。しかし、沖縄から学べる事は多く、人は少ないなりに改善できる点は多々あります。この経験は私にとって「慣れ」てしまった研修生活に喝を入れ、初心に戻り、これからの医師生活の上で大きな糧となりました。
最後に、沖縄研修を実現してくださった副院長先生を始め、南部医療センター、渡嘉敷診療所のスタッフの方々に感謝申し上げます。

(※首里城より、那覇の夜景)
研修医2年目 福井 智久