【2010年09月29日】 タイトル: 研修医日記 vol.118
 とてもとても暑かった夏が終わって、最近朝晩はめっきり冷え込みます。いつの間にか9月も終わりそうです。
私の研修医生活も9月いっぱいで半年になります。それを記念して、4月5月の頃、つまり研修が始まったばかりの事を思い出してみます。
 

【夜間救急外来・副直2回目】
 患者さんがやってきた。4歳の男の子。主訴は熱。
「じゃあ太田先生、診てみようか。」
 上級医に背中を押されて患者さんに向き合うイスに座る。ぎこちなく問診を始める。
38℃の熱と鼻水。だけど水も食事も取れている。全身状態も良好。多分大丈夫だろう。
 もちろん診察もする。胸に聴診器をあてて音を聞く。うん、呼吸音が聞こえる。変な音が混じっていないか?耳に神経を集中して音を聞き取る。
 「ぴろろろろろ。」電話の鳴る音が聞こえる。
「いやー!いやー!かえるー!」ああ、隣の診察室で子供が泣いている。元気そうだな。
 「患者さん来ました。」事務の人が新しいカルテを持ってくる。
 「ぴろろろろろ。」また電話だ・・。
 
・・・・ああ。・・・全然聞こえない。
 学生実習中の病室は静かだった。こんなにうるさい中でどうやって聞き取るんだ?こんな状況で、どうやって「変な音が聞こえない」って判断できるんだ・・・・?


【夜間救急外来・副直3回目】
 患者さんがやってきた。65歳くらいの女性。主訴はめまい。
 ふんふん、突然めまいが始まったのか。回転性のめまいか、なるほど。話を聞いていると良性発作性頭位めまいみたいだ。だけど小脳の病変が無い事を確認する必要があるな。まずは指鼻試験をすればいいんだな。おお、自分の知識でもなんとかなりそうだ。

「○○さん。私の指が見えますか?自分の指で私の指を触ってください。」
「はい・・・っぷ。・・・・・。・・・・だめです。目を開けると吐いてしまい・・・っぷ。」
「・・・・・。」

こんな人に指鼻試験ができるわけがない。こういう場合はどうすればいいんだ?私の中の引き出しはもう空っぽだ。次は何をすればいいんだ?
ああ、自分の知識だけじゃなんともならなかった・・・。
【夜間救急外来・副直6回目】
 患者さんがやってきた。65歳くらいの男性。主訴は腹痛。
 夕方からお腹が痛い。痛いのは下腹部。食事はとれている。水も飲めている。
現在泌尿器科に通院中。尿道にチューブが入っている。
「そういえば、今日はあんまりおしっこが出ていない。」

 ・・尿が出ない?尿道にチューブが入っているんだから尿閉は無いよな。じゃあ乏尿か。水も飲んでいるっていうし、脱水じゃなさそうだ。そうなると腎臓そのものの問題か。腹痛と腎臓って関係しているのだろうか?腎臓が悪くて血液の電解質が狂って、それで腹痛が起きているのか?なんだか難しそうな病気だな。どうしよう、俺の手に負えそうも無い。でも、腹痛と乏尿なら少なくとも血液検査はするべきだろうな。あとは尿検査か?うーん、それにしても一体なんの病気なんだろう・・・。


答:尿道のチューブが詰まっていた。

 ・・・まさか、あんなに太いチューブが詰まる事があるなんて。想像もしていなかった。
自分の思考過程の一番最初が間違っていたわけだ。ああ、血液検査とかしなくてよかった。こんな事が教科書に載っているわけがない。
・・・・これが実戦ってやつか・・。

 ふと見ると、看護師さんの手によってとっくに新しい尿道のチューブが用意されている。分かっていないのは自分だけだった。
 ・・・・・もっと早く教えてくれよ・・・・。

 まあいい。
「痛みを伴わない教訓に意味は無い」
って、誰かが言ってた。
 あんまり痛いのは好きじゃないんだが。せめて前向きに考えよう。


 臨床にでて最初の一ヶ月。あの頃は上の先生方を見て「いつになったらああいう風になれるんだろう」とばかり考えていた。
 それから約半年経った今。今も上の先生方を見て「いつになったらああいう風になれるんだろう」と考えている。
早く「俺ってできるじゃん!」って勘違いできる程度には成長したいものです。
一年目研修医、太田でした。

P.S. むつ総合病院を受診される方へ
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研修医1年目 太田 圭一