【2011年01月19日】 タイトル: 研修医日記 vol.133 むつ総合病院の四季
―― むつ総合病院の四季

 夏は4時頃。6階病棟。
 少しずつ明るくなってゆく空の下。まだ気温はそれほど上がってきていないが、天気の良さがその日の暑さを予想させる。
窓の枠のすぐ下に、何かもぞもぞ動くものがある。それは、夜の間ナースステーションの明かりに惑わされた羽虫たち。もう飛ぶ力も失って這い回るのみ。そんな羽虫たちが折り重なる窓の枠の下に若いスズメが飛んでくる。スズメの目的は羽虫。片っ端から羽虫をついばんでいって、手軽に朝食を済ましていく。
遠くに視線を移してみると、大湊へ入港する自衛隊の艦が見える。自衛隊の艦が入港する日は田名部川河口でスズキが釣れるという。自衛隊艦と一緒にスズキが泳いでいて、陸奥湾の奥まで入ってくる、そう街の喫茶店で聞いた。本当かどうかは分からない。自衛隊艦が入港する日もしない日も、私は田名部川河口には何度も釣りに行った。しかしスズキは一度も釣れなかった。喫茶店マスターの噂話が嘘なのか。私の釣りが下手なだけなのか。

 秋は23時頃。宿舎前の駐車場。
 満月に浮かびあがる釜臥山のシルエットが遠くに見える。気のせいか、ずいぶん空気が澄んでいるようだ。東の空にはもうオリオン座がくっきりと見える。涼しい風が、風呂上りのほてった体を気持ちよく冷やす。
明日も天気がよさそうだ。早起きして釣りに行こう。

 冬は17時頃。7階病棟。
 昼の間降り続けた雪がようやく止んだ夕暮れの頃。まだ西の空はほんのりと明るく、雪の積もった立ち木やビルを桃色に染めている。自動車のヘッドライトと家々の窓から漏れる明かりと街灯の光が、降り積もった雪に乱反射している。光の乱反射が、町全体をぼんやりとオレンジ色に浮び上がらせる。太陽はもう沈んでいるのに、夜は上空に待機したままで、街まで降りて来る事ができてない。
なんだか少し暖かそうな気がしてくる。実際の窓の外は氷点下7℃なのだけど。

 春は22時頃。金谷公園。
 金谷公園は病院の隣にある公園。もちろんむつ総合病院の敷地ではないけど、院内PHSの電波が通じる。だから気分的には敷地内。
この公園には、まだ若木だが桜が何本も植えられている。それが春になると花を咲かす。若木の桜には、古木の妖艶なまでの美しさは無い。それでも若木ならではの勢いのある枝振りが、十分に桜を楽しませてくれる。昼間にはぽつぽつと人のいる金谷公園だが、遅くなると誰もいなくなる。見る者が誰もいなくとも、外灯に照らされた満開の桜は咲いている。
もちろん桜は、人の目を楽しませるために咲くのではない。桜が咲くのは自分のため、自分の生殖のためだ。
でも、誰一人見る者がいない場所でも咲き続ける桜は、その姿勢からすでに美しい。

 自分も、そんな風に生きていきたいと思った。

 最後まで書いて少し追加。
 桜の花のように、見られていなくてもベストを尽くして生きたいと書いたつもりです。生殖を目的に生きていきたいと書いたつもりはありません。
 ああ、でも産婦人科志望だから、別に問題ない気もしてきた・・・。

研修医1年目 太田 圭一