【2011年06月27日】 タイトル: smile
 1977年、地球からボイジャーという名の惑星探査機が宇宙に向かって打ち上げられました。打ち上げは成功、2年8カ月後に木星に到着し、大量の観測データを地球に送りました。さらに土星、天王星、海王星の各惑星に到着。そこでも同様に惑星を探査し、科学的に重要な多くの発見をしました。例えば、海王星にも土星と同じように輪が存在することを初めて確認したのもボイジャーです。その頃にはすでに打ち上から12年。ここまでくれば太陽の光はあまり届かず、昼も夜もない宇宙空間がただ広がっているだけです。
 海王星を通り過ぎた後のボイジャーは、それ以上の観察対象もなく、ただひたすら外宇宙にむけて地球から遠ざかっています。ボイジャーは人類が作った人工物で、最も遠くまで行った物体です。

 宇宙に関心のある人にとってはよく知られた事実ですが、このボイジャーには、まだ見ぬ宇宙人に対するメッセージが積まれています。果てしなく遠くまで行く人工衛星に、宇宙人に対する地球の自己紹介を載せているわけです。
 積荷の金色に光るプレートには、銀河系における太陽の位置と、太陽系における地球の位置、人類の男と女の姿を示す絵が記されています。さらに音声と映像が記録されたレコードと、そのレコードを再生する方法が書かれたプレートも別にあります。
 そのレコードに記録されている映像は、地球の風景。海岸、砂漠、ジャングル、高速道路、人間の姿、動物の姿。音声のほうには、当時のアメリカの大統領であるカーターの声明。風の音。波の音。雨の音。様々な動物の鳴き声、小鳥のさえずり、ザトウクジラの声。ベートーベンの「運命」、モーツァルトの「魔笛」。世界五十数カ国での挨拶の言葉。

 そして赤ん坊の泣き声と、赤ん坊をあやす母親の声。



 こんにちは、太田です。
 現在は産婦人科で研修中です。
 産婦人科での研修の一番の見どころは、なんといっても妊婦さんの腹部超音波です。
 これはお腹に超音波を当てることで、胎児の大きさや状態をある程度知ることができる検査です。ちゃんとした技術があれば、お腹の中の赤ちゃんの顔やしぐさが見えます。顔の形がある程度わかったり、脚と脚の間に男の子を示すモノが見えたり、むにゃむにゃと口を動かしていたり、指を吸っていたりするのが見えたりします。
 このような画面が写し出されている時、それを見る妊婦さんは、確実に、極上の笑顔になっています。本当に完璧な笑顔。英単語帳の「Smile」のページのさし絵にも使えそうな、混じりけのない笑顔です。
 自分に向けられた笑顔ではない事は十分承知しています。
 それでも、この笑顔を見る価値は十分にあると思います。


 ボイジャーの打ち上げがあと35年ほど遅かったら、この笑顔もぜひ載せるように推薦するところでしたが、残念です。
 「腹部エコーで見える胎児の姿と、それを見ている妊婦の笑顔」
 宇宙人に対する地球の自己紹介として、こんなにふさわしい映像はないと。

 そんなことを考えながら、今日も産婦人科で研修中です。

研修医2年目 太田 圭一